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2019/08/23 パワハラとマラソン【人事担当者通信 3】

 長時間労働やパワハラ、セクハラなどにより精神的に追い詰められ、過労死や自殺、そこまで行かなくても体調を崩して長期間働けなくなる、などの事例が世間ではあとを絶ちません。このようなことはあってはならないことですし、発覚したときの企業へのダメージも計り知れないでしょう。では、なぜ起こるのか。

 マラソンを考えてみましょう。42.195kmという長距離をどれだけ速く走れるか競うスポーツです。当社本社事務所があるヒライビルから京都駅まではおよそ2.5kmありますが、42.195kmとはこれを8往復以上ということになりますから、とてつもない距離です。マラソン経験のない私が、ある日突然思い立ってやってみたらどうなるか。途中でリタイアするか、倒れて救急車で運ばれるかどちらかですね。これは自己責任ですからパワハラとは言えません。また、プロやアマチュアの選手が走れば、なんら問題なくクリアできてしまいます。だから、42.195km走ることがパワハラなのではありません。

 パワハラは、使用者がそれを労働者に「強制する」ことから起こります。「そんなことは無理だ」と考えている労働者に「いいから、やれ」と無理やりさせることです。ただ、それだけでは成り立ちません。お客様先への訪問をためらっている部下に、「いいから、とにかく呼び鈴押しなさい」と言うだけでパワハラ認定されたら、仕事になりませんからね。問題は、どう考えても(社会通念上)おかしいことを強制することです。「アポイントが取れるまで休憩を取らせない、帰らせない」「通常1ヶ月はかかる業務を、1週間でやれと言う」「不正や犯罪行為を強要する」などがそれにあたります。

 そもそも、労働者をその意思に反して不当に拘束し労働を強制することは労働基準法上明確に禁止されており、「10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」という、同法上最も重い罰則が科せられます。これは、実際にさせることはもちろん、実際にはさせていなくても「強制する」だけで成り立つ違法行為です。

 しかし、上記のようなケースはその線引きが難しいことが少なくありません。例えば「通常1ヶ月はかかる」というのは曖昧です。今までは非効率なやり方をしていたから1ヶ月かかっていたが、やり方を変えれば1週間でできることがわかれば、それは違法ではなく、むしろ功績になりますよね。不正というのも、そう思っているだけで実は違うということもあるかもしれません。結局は状況に応じて判断するしかないのです。

 ですから、パワハラとは、①嫌がる労働者に強制する、②社会通念上不当な業務命令である、に加えて、③強制する側が不当であることを認識していない(もしくは認識していながら悪意を持っている)ため責任が取れない(責任を取らない)、がそろって成り立つのだと思います。もちろん「これがそろっていなければ、パワハラではない」と考えることは健全ではありませんし、そう結論づけようとしているわけではありません。③がもっとも大事なのではないかと言いたいのです。③を意識することは、「安全配慮義務」を意識することでもあります。まずは、使用者側がここを認識しつつ、労働者が業務上行うことについてその安全に責任を持つこと、その上でよく労働者を説得し、できる限り双方が納得した上で気持ちよく業務をさせる努力をしなくてはいけません。

 箱根駅伝を走る学生ランナーの後ろを走る車には、監督が乗り、常に選手の状態を見ながら叱咤激励をしています。選手が苦しんでいたとしても、不当な強制をされていることにはなりません。監督は、何かがあればすぐに走ることを中止させ、選手の健康を最優先させる勇気を持っています。またそこに責任を持てるからこそ「もっと頑張れ!」と言えるのだと思います。仕事もまた、同様でありたいものです。