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2019/12/20 「ディベート」を活用して視点を広げる

 皆さんは「ディベート」をされたことがありますか?

 そもそも「ディベート」を知らない方のために簡単に説明しますと、ディベートとは、あるテーマについて、「賛成」「反対」など明確に対立する立場の2チームを作り、その2チームが自分の立場を保ちながら徹底討論するゲームのようなものです。一定の討議ルールを決めて行い、それを見ている人たちが最終的にどちらのチームが「勝ち」かを決めます。訴訟人につく検察官と被告につく弁護士が証拠を戦わせ、裁判官が判断する裁判とも似ていますが、刑を確定するのではなく、勝敗を決めるという意味でスポーツのようでもあります。

 執筆者は大学時代にディベートを経験する機会を持ったのですが、そのときのテーマは「余命の告知」についてでした。例えば患者にガンが見つかった場合に「あなたは末期ガンで、あと3ヵ月しか生きられません」みたいな事実を伝えるかどうか。伝えるべきという立場と、伝えるべきではないという立場に分かれ、一定期間情報収集や作戦づくりの機会を与えられた後、論争しました。そのとき、私は個人的に「余命を告げられるのはつらいな」と思っていたのですが、ディベートではあえて「伝えるべき」の立場で論戦に挑みました。結果は相手側の「勝ち」でしたが、とても大切なものを学んだという実感がありました。

 人生において「自分の考えと逆の立場で話す」機会なんてそうありません。例えば新しい飲食店をオープンすることになった場合。食材に徹底的にこだわり美味しい料理を作りたい料理長と、徹底したコストカットで収益を上げたい経営者の議論において、料理長がコストカットの立場から、経営者が美味しい料理作りの立場から議論するなんてことは(意識しない限り)ほとんどないでしょう。「美味しい料理が食べられなくて何が顧客満足ですか! 収益ばかり重視して客を馬鹿にしていれば誰も店に来なくなりますよ!」「おいおい、収益を上げられなければそもそも店は潰れるだろ! 第一うちは高級路線じゃない。そのこだわった食材とそうでないものとの違いがわかる客がどれだけいるんだ? さらに言えばどんな食材でも美味しく仕上げるのが料理長の責任じゃないのか?」みたいな実りのない言い争いが起きるのが常というもの。

 そして、ディベートの考え方ができる人は「相手の立場に立って」物事を考える頭を持つようになります。これは決してきれいごとではありません。

 なぜなら、どうしても自身の意見を通したいとき、相手が何を考え、どのように攻めてくるかという情報はとても重要だからです。先ほどの料理長と経営者の議論で言えば、料理長が経営者を言い負かすには「徹底したコストカットで収益を上げる」という経営者の思いを知っていることが重要です。「オーナー、徹底したコストカットをすれば確かに同じ客数をさばいて上がる収益を最大化できますから、経営者としてそうしたいと考えるのは当然のことです。ですが、ここら周辺は同じような飲食店がいくつもありますよね。その激戦区で長く勝ち続けていくためには『この店だから来た』という強みが必要です。私はすべての店に足を運んで料理を食べましたが、二度訪れたいと思う店はありませんでした。ここでうちが食材にこだわれば、一日の収益は減るかもしれませんが、長く勝ち続けることができます。コストをかけてもこだわるべきです!」のように、説得することができる。反対に、経営者が料理長を説得するのであれば、「君がこのあたりでも最も腕の立つ料理人だということはよくわかっている。いい食材を使ってお客さんに喜んでもらいたいという心構えは立派だ。しかし、君が言う食材を毎日安定して仕入れるのはかなりの苦労を伴う。遠方から取り寄せるということは輸送コストもバカにならないし、第一、大雨などで作物に被害が出て安定した仕入れが困難になったら、食材が確保できなくて店を開けられなくなるんじゃないか? 私は最高級の食材ではなく、それをさばく君の料理の腕に期待しているんだよ」のように説得できるかもしれません。いわゆる「敵を知り、己を知れば百戦殆(あやう)からず」というやつです。議論に勝つためには本気で相手の視点に立って物事を考える必要があるのです。

 もし機会があれば、何かをテーマに議論するとき、あえて自分の考えと正反対の立場から論を展開してみましょう。それも真剣にです。「都会か田舎、どっちがいい?」「男と女、どっちが得?」「スマホとPC、どちらかしか持てないとすればどちらを選ぶ?」など、議論する価値のある話題はたくさん転がっています。自分の本来の考えを打ち負かすくらいド真剣に語ってみましょう。これはすごく頭の体操にもなりますし、自身の視点を広げるのにも役立ちますよ。

 

【執筆者】人事担当